今日のラノベ!



三角の距離は限りないゼロ


三角の距離は限りないゼロ

著者:
岬鷺宮

イラスト:
Hiten

レーベル:
電撃文庫


【あらすじ】

人前でどうしても「偽りの自分」を演じてしまう僕。そんな僕が恋に落ちた相手は、どんなときも自分を貫く物静かな転校生、水瀬秋玻だった。けれど、彼女の中にはもう一人―優しくて、どこか抜けた少女、水瀬春珂がいた。「一人」の中にいる「二人」…多重人格の「秋玻」と「春珂」。僕は春珂が秋玻を演じる学校生活がうまく行くように手を貸す代わりに、秋玻への恋を応援してもらうようになる。そうして始まった僕と「彼女たち」の不思議で歪な三角関係は、けれど僕が彼女たちの秘密を知るにつれて、奇妙にねじれていき―不確かな僕らの距離はどこまでも限りなく、ゼロに近づいていく。これは僕と彼女と彼女が紡ぐ、三角関係恋物語。





感想:★★★★★




岬鷺宮作品の集大成がここに。




あとがきでそう語られていたからっていうわけではなく、読んでいる間本当に思っていたんですよ。
寝っ転がって読みながら、










「あー、これ聖書」







って呟いた記憶がありますもん。

『失恋探偵ももせ』から千代田百瀬が担任の先生として(実に10年後の姿!)登場し、『読者と主人公と二人のこれから』の少し後の時間軸で、隣のクラスで、修司と須藤の二人もクラスメイトとして登場、そして場所は『放送中です!にしおぎ街角ラジオ』からの恒例である西荻窪。
「不器用な恋」を綴る青春作品群の集大成、それが今作であったと思います。





親友の春珂と、恋をしている秋玻。
同じ身体に宿る2つの人格それぞれに友情以上の感情を持ちつつも、その2つに線引きはしっかりしている矢野くんの対応が最高に好きです。
そして、恐らく矢野くんが二人に向けているのと同じ感情を抱いている二人が、なかなかどうしてすれ違ってしまうところも好きです。
周囲に迎合するため自分を偽ることに罪悪感を抱いている矢野くんと、片割れである秋玻のため積極的に自分を偽る春珂が「本当の自分」を求める点で気持ちを共有する点も好きです。
秋玻は春珂のために春珂を肯定し、春珂は秋玻のために春珂を否定するという切なさもまた好きです。



春珂は友達として、秋玻は恋人として一緒に居たいと自然に思えるキャラなのもまた良かったです。
『失恋探偵ももせ』の時から少なからず思っていましたが、そういうキャラの位置づけがうまいですよね……。
あるいは性癖の一致ともいう。

今回の話で言うなら、もしも読者が春珂を恋人として、秋玻を友人として扱いたくなるようなキャラだったら物語が捻れてしまうわけじゃないですか。
ただでさえすれ違ってしまうのに。
その捻れを起こさず、主人公と同じタイミングで自然と恋に落とされる感覚が、とても好きです。






以下、ネタバレ濃くなる読書メモ。




 

読書メモ




プロローグ前:手紙
⇒読み終わった今この手紙を読んでも、やっぱりどっちに宛てて書いた手紙なのか分かりません。
あるいはどっちもなのかもしれません。
春珂が消える直前。
秋玻にとっては春珂と共存する最後の日に、春珂にとっては自分がこの世に存在する最後の日に二人に宛てた手紙。
んー。
その時が来るのはまだ先だと思いたいけど、いつかその時の物語が紡がれるのでしょうか……?



62p:うわあ、うわあ
⇒自分のもう1つの人格に恋をしていることを告げられるってどんな気持ちなんでしょう……?
嬉しいような悲しいような。



66p:66p!66p!
⇒挿絵で登場、みんなの千代田先生!
この泣きぼくろをまた見れる日が来るとは……!
今作の聖書感は、彼女の出番の多さも一つの要因だと思います。
かつての失恋探偵が、今この瞬間恋に迷う少年少女を優しく導き後押しするということのエモさ……!
野々村九十九との仲も順調なようで、なんかもう本当にここだけで泣けてきます……。



88p:1組の細野
⇒『読者と主人公と二人のこれから』のカップルもどうやら順調そうで!



190p:6時間近く
⇒唐突な推理タイム

集合が10時、西荻窪駅からお台場までが大体1時間くらい、18時前のシーンで6時間近くということなので観覧車のシーンが大体17:30頃。お台場の観覧車が1周16分なので、最後春珂から秋玻に変わったのは17:45頃
集合時点では秋玻で登場し「午前中いっぱいは秋玻の人格で買い物をし」(154p)ということと物語開始当初の「131分で人格が変わる」ことを矢野くんが考慮していることを考えると、集合直前で秋玻に変わった可能性が高いです。ここでは仮に9:45頃に変わったということにしておきましょう。

お出かけ中、秋玻⇒春珂⇒秋玻⇒春珂と変わりそれぞれの時間をフルに使っているため、当初の計算でいくなら「131分×4回=524分=8時間44分」となりますが、17:45から逆算すると最初の秋玻が9時に始まり11時過ぎに終わる計算になってしまいます。到着後すぐなのでとてもショッピングなんて出来ません。
つまり、矢野くんの感じていた入れ替わり時間のブレは確実に起こっていたのです……!

メイン人格たる秋玻の時間が変わらず、サブ人格たる春珂の時間が短くなっているという仮定で計算してみると……
最初に仮定した9:45スタートの17:45終わりだと丁度8時間=480分。
(480-131×2)÷2=109分
ということで、春珂の表出時間が物語開始当初より22分も短くなっていることがわかります。




230p
⇒で、そういえばこのシーンで春珂の入れ替わり時間が書いてあったなぁと見返してみたらドンピシャでビックリしました(笑)



276p:イラスト
⇒ここと、あと200p、201pの見開きのイラストがすごい好きです……。
『読者と主人公と二人のこれから』も見開きで美麗イラストがあってグワアアアって感じでしたが、今巻もさらに素晴らしい美麗イラストでグワアアアアアアアって感じです。
伝われ……




まとめ




好き!(締めの挨拶)




今作は『失恋探偵ももせ』から始まった物語群の1つの区切りであり、今後も広がっていくであろうことに期待する1冊でもありました。
もちろん『魔導書作家になろう!』のようなファンタジー作品も全力で待っていますが、やっぱりどこかで百瀬の姿を探してしまう自分がいることは確かです。
もちろん単巻で読んでも十分楽しめますが、もし今作が初岬鷺宮作品で今作を気に入ったという方がいらっしゃるのならば、是非とも既刊を周回してほしいです。
今作と世界観を共有している作品は、順番に

『失恋探偵ももせ』(電撃文庫・全3巻)
⇒『失恋探偵の調査ノート』(メディアワークス文庫)
⇒『放送中です!にしおぎ街角ラジオ』(メディアワークス文庫)
⇒『読者と主人公と二人のこれから』(電撃文庫)
⇒『三角の距離は限りないゼロ』(今作・電撃文庫)

となります。
(『陰キャになりたい陽ノ森さん』は大変お恥ずかしい話ながら未読なので世界観共有しているかどうか分かりません……)
他作品も素晴らしいですが、まずはこの順番で入るのが良いかと思います。
そこから『踊り場姫コンツェルト』『僕らが明日に踏み出す方法』を経由した後に、以上の作品と世界観的に一線を画す『魔導書作家になろう!』や『墜落乙女ジヱノサヰド』へ向かわれると、より楽しめるのではないかと。


えー……多分以上で全作品ですね。よし。




いつか『岬鷺宮作品群』として一連の作品が5部作くらいで映画化されることを切に願います……
……アニメでね?実写も合いそうだけどアニメでね?


以上!



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