今日のラノベ!


純真を歌え、トラヴィアータ


純真を歌え、トラヴィアータ

著者:
古宮九時

イラスト:
とろっち

レーベル:
メディアワークス文庫


【あらすじ】

『―私は、夢に届かない』トラウマにより歌声を失い、プロのソリストの道から脱落した19歳の椿。幼い頃から全てを捧げてきた夢を失い、残ったのは空虚感だけ。そんな中、椿はオペラの自主公演を行う“東都大オペラサークル”の指揮者・黒田と出会い…。才能を持たざる人間の、夢と現実。歌声を失った歌姫と、孤高の指揮者―希望を見失った二人が紡ぐ、“挫折”と“再生”の物語。書き下ろし。




感想:★★★★★



形は違えど、誰もが一度はぶつかったことがあるであろう「夢への壁」
主人公・椿もそんな大きく厚い壁にぶつかり、そこから逃げ出してしまった一人。

どこでぶつかったかは分からないけれど、確かに覚えのある諦観。
故に最初の数pで椿にひどく共感し、背後に忍び寄る「何かの気配」に怯えながら読み進め、一人と一人によるオペラで唇を噛み締めることになるでしょう。







ということで、純真を歌うトラヴィアータの物語。
ひとまず読み終わって思ったのは、夢は最初に思い描いていた通りに叶うものではないということでした。
苦悩に挫折に努力に克己、自分だけでなく周囲との確執や融和を経て、思わぬ形で結実するのが夢なんですよ、きっと。
それこそトラウマを抱えるような出来事を経たとしても、一度逃げたとしても。
むしろ挫折の中で自分と向き合って、その向き合って中で初めて自分の夢の本質に気づくものなのかもしれません。
「~になりたい」系の夢は、そこに隠れた「どういうことをしたい」という本質をぼやかしがちですから。

椿の本質がどこにあったのか、それを違えることなく言葉にできるのは本人だけなので語らずとさせていただきますが。
彼女の“純真”は、美しかったです。






“東都大オペラサークル”で指揮者を務める黒田
椿と同じく挫折を経験し、それをうまく自分の中で消化して「全てを掬う指揮」という今のスタイルを確立している彼は、まさに椿の先導者にして今巻の指揮者
音楽が好きだと即答するのに苦しい顔をしている椿を見て、かつての自分を重ねたのかどうなのか。
立ち入りすぎず、さりとて冷たくしすぎず。
「キミ、本当に大学二年生かい?」と言いたくなるほど人生に達観しているような雰囲気がありつつ、周囲から慕われ全幅の信頼を得ている姿にキュンキュンします。
ピリッとした空気を纏っていそうなのに、話してみると目を見張ったり呆れてみたり表情が意外なほど豊かなのがdeskyzer的にポイント高いです!

彼もまた当初思い描いていた形とは別の形で、されど本質の部分では何も変わることなく、今作内で夢を叶えたのかなぁと思います。
彼の指揮と演奏は、間違いなく二人の心を揺さぶった!






そういえばオペラは生で見たこと無いですね……記憶の限りでは。
物心つくかつかないかくらいからクラシックのコンサートに連れていってもらっていたので、もしかしたらそのうちの一つくらいはオペラだったのかもしれません。
……少なくとも、椿ほど心に残るものではなかったのでしょう。
クラシックですら会場の雰囲気ごと覚えているのは「威風堂々」と「ラデツキー行進曲」くらいなものですし……。

音楽の授業の一環で映像で見たオペラは幾つか覚えて……ますねタイトル以外。
あっ!魔王!……はリートか。
数年以内には会場に足を運んでみたいと思います!






以下読書メモにて!



読書メモ




6p:喉痛い
⇒『死を見る僕と、明日死ぬ君の事件録』に続き、またもや古宮先生がプロローグでやってやがりくれました。
椿がトラウマを抱える、まさにそのシーン。
何かに背後から追われ、そこから逃げるかのようにステージ上で歌っている椿を想像して喉が痛くなりました……。
今作の最も素晴らしいシーンを挙げるとしたら、私は迷いなくこの「序曲」を挙げます。
椿の感じる恐怖、止まってくれない音楽、やってくる見せ場、“追いつかれた”瞬間の頭が真っ白になる感覚。
この鮮烈すぎる序曲が、後々の椿への共感の要因になっていることは間違いないでしょう……。
自分が経験したわけじゃないのに、昔こんなことがあったんじゃないかと錯覚するくらいハッキリと想像してしまえるのだもの……。



50p:トラヴィアータ
⇒本作タイトルの一語。
ヴェルディ作曲「椿姫」の原題で、イタリア語で「道を踏み外した女」という意味だそうです(本文より)。



139p:客席から
⇒夢から逃げたのだから、そこに関わるとしたら客席から。
それを達観しているかのように思い描く椿は、控えめに見ても何かから目をそらしているかのようで。



154p:たったひとつ
⇒清河の生き方が眩しいです!
多趣味にもマニアにもなりきれない私からしてみれば。



165p:あー、やっぱり?
⇒100pの黒田の発言からなんとなく察していましたが、この先輩方の反応を見るに間違いなさそうです。
黒田と椿は同じ公演を見て音楽を志し、一度挫折し、そして同じオペラサークルに所属することになったのですね。
もう付き合っちまえよ(ボソッ



171p:卵
⇒僕この表現絶対どこかのタイミングで考えたことあるんですよ!!
卵みたいに色んな要素を全部ひっくるめてまとめてるもの」ってやつ!

……サクッとブログ内検索してみたらヒットしたんですが全然違うニュアンスでした。
「卵焼きは何回もひっくり返すけど、結局卵だよね?」という、表裏と本質の話を『桜色のレプリカ』の感想の中でしていた時に使ってました。
最早卵を比喩に使っていたことしか合っていない……




200p:くるしい
⇒くるしい



216p:歌った!
⇒もうくるしくない!



252p:あー!そこか!そういうことか!
⇒165pで全部分かった風になってドヤってた自分が恥ずかしいんですが、ここでようやく黒田と椿の本当の出会いに気づくことができました……。
見知らぬ少年……





まとめ




『死を見る僕と~』に続いて、またもや翻弄されたのが悔しい……。



夢って本当に理不尽ですよ。
とても輝いて見えるのに、近づけば近づくほどその遠さに打ちひしがれる。
夢がある場所の熱さに、高さに、深さに立ちすくんでしまう。
そしてたどり着いた時に、それまで辿ってきた道が何より美しく、今までの出来事こそが輝く夢だったのだと知ることができる。


まぁ。
私自身は小学4年の段階で、

「サッカー選手?それを夢見る同年代少年の数と一年間に新しくプロになる人数で計算してみなよ。ザックリの計算でも何万分の一でしょ?無理無理、現実的じゃない」

と考えて地元のサッカーチームに入らなかった人なので、語る資格なんかひとつも持ち合わせていませんが。
ある意味最初から挫折しているとも言えるので、人一倍、椿の自分に自信のない態度が響きました。


ひとまず……何をするにしてもまずは椿のように体づくりから始めようかと思います!
(そこに影響を受けるのか僕……)




以上!






スポンサードリンク